独り言



 お久しぶり。あら、有難う
 何時来てもここは気が利いてるわよね
 落ち着いた照明と美味しいおつまみ
 私も見習わなくっちゃっていつも思うんだけど、思うだけ
 それじゃ、いつものお願い
 あ、ダブルでね
 今日はオーナー来てないのね
 それにしても、和ちゃん、相変わらずきれいよねえ
 さぞやあの憎たらしい鼻持ちなら無い男に愛されてるんでしょうねえ
 やだ、照れなくてもいいのよ
 オーラが出てるもの
 幸せって
 ねえ、聞いてくれる?
 最近うちの店にへんなのが来るのよ
 ほら、先々週だったかしら、テレビ番組で「プロ野球特番!あの人は今!」てな具合のものがあったじゃない。あれに私の名前も出てたらしいのよね
 スポーツ選手なんて現役退いたら日陰の身ですからね
 あたしなんて、まだまだこれからって時にひじの故障で手術を受けるって時に戦力外通告受けて、自由契約になっちゃうし、どこのチームもひらってもらえなかっ

たし、大リーグ行くにはとおが立ってたしねえ
 最初は解説者なんかもやったのよ、だけど、あの世界も年功序列だし、組み合わせも微妙だったみたい
 それはともかく、「その特番」であたしの名前も出ちゃったわけよ
 だけど、あたしは野球の世界から足を洗っているわけだし、いうなれば消息不明だったわけよ
 別れた嫁とは何年も連絡とってないし、子供たちにも会ってないわ
 こんな風になってるのを見られたくないし、彼女も新しいだんなと幸せに暮らしているはずよ
 言ってもうちは健全なバーですから、別になんってことは無いんだけど、そっとして欲しいものよねえ
 過去の栄光には縋りつきたくないのよねえ
 思い出すだけで悔しくなるもの
 え?和ちゃんもうちの店ゲイバーかなんかだとおもってたの?
 ちがうわよー
 ちゃんとした健全なバーですよお。い・や・だ
 まあ、その手の人が常連になってるってのはほんとうだけどぉ、オカマバーともゲイバーとも掲げてないからねえ。女性の常連さんもいてるからねえ。誤解も甚だしいったらありゃしないわ
 あ、今日はねえお店おやすみにしたの。ほらさっきの話の変なの。あれがどうもフリーのライターだかなんだかで、うちのバーのお客さんとかの記事を狙ってるみたいなの。もちろん私のゲイ疑惑もね。うっとおしいったらありゃしない
 和ちゃんも気をつけなさいよ
 あ、まあ、この店は大丈夫ね
 そんな余裕な顔してさ。なんかムカつく
 そうそう、そういえば、この前ね、懐かしい連中が来たのよ。まあ、あのテレビ番組の影響だけどさ、人のこと冷やかしにたのよねえ
 この二人も今や野球界からは足を洗っているもの
 一人は子供二人抱えて親の後をついで工務店を切り盛りしているらしくって、もう一人も同じ工務店で営業しているらしわいよ。工務店って言ってもそこら辺の小さな会社じゃないようなのよ。いわゆるゼネコン?らしくって。あんまり詳しくは聞かなかったのよ。
 まあね、二人ともプロなる前は社会人していたからね。
 え?
 誰と誰だって?
 うふふ
 内緒って言いたいけど、和ちゃん口堅そうだからお・し・え・て・あ・げ・る
 
 あたしたちはチビ猿って呼んでたのよ
 小柄ですばしっこくって
 え、あの子じゃないわよ、赤い彗星じゃなくってよ
 まあ、あの子も小柄だったでつぶらな瞳が愛らしかったけど、違うわよ、もう一人いたでしょ
 目がくりくりでね
 可愛いって言えば可愛い部類かしら。でもあの子も大変だったと思うのよ、せっかく芽が出だしたとたんにポジション争いを強いられたんだもの
 その後から来た子はさわやかな好青年って感じで、お互いいいライバルになったみたいよ
 チビ猿も気持ちのいい子だったからね
 まあ、オリンピック出場とかもあって大変だったみたいだけど、その前の十云年振りにチームが優勝したときはあたしも敵チームながら拍手を送ったものよ
 まあ、もしかしたら自分が所属していたかもしれないチームだったしい?
 言っても地元だしねえ
 で、そのチビ猿は優勝する前の年に市民球団からトレードできたバッターの男に惚れちゃったのね
 その辺の話は私も又聞きなんだけどさ
 子犬というか小猿のようなチビ猿になつかれてまんざらでもなかったみたいなのねえ、あの男。
 ことあるごとにチビ猿をおもちゃにしていたもの
 おもちゃって、そんな意味じゃないわよ、まだ
 その時は中の良い兄弟がじゃれあってるって感じだったわね
 敵チームながらほほえましかったもの。
 私がいたチームには可愛い子なんていなかったわ
 もうみんなぶくぶく太っていっちゃうもの
 金太りとか言われちゃうんだもの
 ふてぶてしいほどまでに肥えてる子達ばっかりだったもの
 正直うらやましかったわ
 筋肉作りだって、ボディービルダーと実質的なスプリンターとの違いぐらいあるんだモノ
 彼らの筋力は瞬発力と持久力がバランスよく兼ね備わっていたのよ
 私がいたチームの子でもいたにはいたけどねえ
 あら、こんなことが聞きたいんじゃないわよね
 あの二人のことよね
 仮に3割バッターの男をKというわね、でチビ猿はチビ猿でもいいかもしれないけど、Fと呼ばせてもらうわ


 Kがあの球団に移ったときにはすでに子供もいたの。5歳の男の子と2歳の女の子
 そして、Fにもうわさの彼女がいたわね
 最初はしぶしぶチームに移ってきたKだけど、男っぷりのいい監督と、どの球団にも負けないいい雰囲気のチームとチームメイトに絆されていったのね
 そのなかでFはKの懐にすんなりと入っていったみたいよ。まるで弟のような存在としてね
 FがいなかったらKはチームになじめてなかったかもね
 事実、チームの中ではFはマスコット的存在だったのよ。赤い子は物静かでしょ

、Fとは良くつるんでいたみたいだけど?
 Fがヒット打てばチームのみんなが頭を叩いてほめてあげていたし、盗塁成功してベンチに戻ってきたらやっぱり頭叩いてほめていたものよ
 後輩の面倒見もよかったようよ
 挫折を知っている子だからだと思うわ
 ほら、ひざの故障とかね
 大学野球でひざを壊してプロには入れないといわれたそうよ
 でも、執念のリハビリよ、自分の夢かなえるために
 社会人として働きながら自分の体を作り直したのよ
 へらへらしてるようでいて一本筋の通った芯の強い子だったのね
 晴れて地元の好きなチームに入団し、チームメイトに恵まれ、指導力のある優れた監督の下でのびのびと成長できたのよ
 そんな中にKが入団してきたのね
 前のチームでも評判の男っぷりと腕っぷしで、カリスマ性のある男ね、チームでは色々と反発があったみたいよ
 そんな中、Fはkをチームになじめるようにチームの雰囲気作りをしていったのよ。えらいでしょ、あたしがいたチームにはそんな子はいなかったわね。いるのは自己顕示欲の強い子達ばっかりだったもの
 そんな二人の関係が変わったのはFとポジション争いをする彼が入ってきてからね
 Fと新人はまったく違うタイプの選手だったわけよ、だけど、監督は多分チームの士気を高めるため、チームのムードメーカーであるFを闘志あふれる選手に育てるために仕向けたと思うのよね
 何しろ、野球界のフィクサーだモノ
 痛む古傷と奪われるかもしれないポジションとオリンピック出場
 Fはいっぱいいっぱいだったと思うのよね
 で、毎年8月の死のロードで倒れちゃったのよ
 過労で
 試合終了後に糸が切れたようにふっと倒れたのね
 その瞬間にkが抱きとめたのよね
 そのときのkったら王子様のようだったわ
 Fをお姫様のように抱えるkは王子様か勇者のようだったわ
 Fが医務室に運ばれていってからのことは私は知らないんだけど、このことが発端だと思うのね
 それからというもの、彼らの纏う空気が変わっていたのよ
 なんというか、長年連れ添った夫婦というわけじゃないけど、今までの兄弟みたいなじゃれあいでは無くて、Fを見守るKの目が優しいし、ベース踏んでベンチに帰ってきたときにKに撫でられるときのFの顔ったらもう笑顔満面でさぁ、本当にうれしそうだったのよ
 あの年はFにとってものすごく大変な年だったと思うのね
 だけど、チームの成績は上場で、優勝を決めたのね
 飛ぶ鳥を落とす勢いでリーグ優勝を勝ち取ったのよ
 本来ならばあたしも地元チームとして優勝を祝いたかったわよぅ
 とにかくあの年が彼らの節目だったわけよ
 よくよくねんの優勝のあとだっけ、Kの奥さんがお子さん二人を残して交通事故でなくなったのよ。Kが現役引退したのは自分の進退のこともあっただろうけど、残された自分と子供のこともあって、引退を決めたんだわ
 球団からはひきとめがはいったわね。だけど、プロとして続ける気もないし、後輩を育てるよりも自分の子供たちを育てたいといって辞退したのよ。破格の契約料だったらしいけど
 家業を継ぐために野球からさっぱりと手を切り、マスコミからも消えたのよ
 その2年後、Fは30なる前に早めの引退。理由は足にビスが入ったからね
 十代の頃からの酷使で膝が壊れたのよ
 彼もあきらめは早かったわね。諦めというよりも見極めね
 さっさと社会人復帰したもの
 若いから出来たのよね
 割り切らないと、プロ野球上がりなんてつぶしが利かないもの、Fはえらかったわぁ
 解説者やタレント、スポーツキャスターになれるのなんてほんの少しよ、何をしても「落ちぶれたね」何て言われたりするしさぁ
 Kはスパッと野球界からは消えたのよ
 野球界において彼の功績はけして大きく残っていくものではなったけど、消えるものではなかったのよ
 ある意味地方出身だからその辺が功をなしたのかもねェ
 そして、この前私の店に二人揃って来たのよ
 私の野球界での数少ない友人から聞いたみたいよ
 仕事で近所に来たからといって二人お揃いでさあ
 ぱりっとビジネススーツなんか着こなしてるのよ、プロ野球選手特有の趣味の悪いスーツじゃ無いのよ、二人ともダークスーツだったんだけど、かたぎの人間だったわ
 Kは幾分か現役時代よりも細くなってたわね
 FはFで現役時代の軽薄な感じの部分が消えて、なんていうか普通の男になってたわ 
 「あの人は今」とか、マスコミ関係の取材は一切受けないらしいし、OB会などにも顔は出さないみたい
 私も同じよ、マスコミはお断り。普通の新聞記者さんでもお断りだわね
 うんざりだわ 
 だけど、お店の所在がばら撒かれるのも時間の問題だわ
 せっかく常連さんが増えたのにね
 でもまあ、いったん引っ込もうかと思ってるのよ。男は引き際が肝心よねえ
 ああ、わたしったらべらべら一人で喋ってたわねぇ
 そこの男前のお兄さんも私の独り言は他言無用よ
 それでオーナーに会いたかったんだけど、今日は来てないようねぇ
 相談事があったのにぃ
 今週末のこのぐらいの時間に来るから、オーナーを引き止めておいてよ和ちゃん
 大事な相談だから

 お願いね

 それじゃ、今日はこの辺で失礼するわ

 ご馳走様

 


 
 
  


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 オカマ一人語り。あーきもちわりー。
 どんだけ喋るねん。
 ビジュアルは清○でお願いしまつ。それだけで笑えるはずです。
 文中の二人は兄貴とチビ猿です。
 これ書いている間にオカマちゃんで思い出しちゃった。
 某推理小説シリーズにオカマちゃんが出てるんだよね。あれとかぶっちゃった。
 いかついオカマ。
 オカマバーのママって筋肉質体型のいかつめの人が多い印象があるなあ。
 元自衛隊の設定って多いよなあ。

 そのうち、KとFの二人の話も書きたいが…ううむ。