Closer
- 疑惑の恋人 -

20061103

7.

 

 その後、朱美ちゃんと別れて大阪の自宅に戻り、しばらく呆然としていると、ドアフォンが鳴った。突然の来客を知らせる音に私の心臓は一瞬止まりそうになった。
「はいはい、今出ますからねー」と玄関まで走った。
  扉を開けると、そこには火村が立っていた。
「外を確認してから開けろよ」
  ぽつぽつと不精髭を生やし、幾分か薄汚れた感じの出で立ちで、憎々しい嫌味健在の火村がそこにいた。
  扉を閉めて玄関に入ってきた火村に私はたまらなくなって飛びついた。
「熱烈歓迎か」
  ニヤニヤと口をゆがめて笑う。
  ほんの1週間会っていないだけなのに、何年も離れていたように思えた。
  無事に無罪放免となった火村は信じられないことに、その足で私の家に来てくれた。
  理由は自分の家である京都の下宿に戻っても荷物が戻っていないと言うこと。
  そして、予備ではあるが、自分の着替えなどが私の家に常備してあるということ。
  どんな理由にしろ私のところに帰ってきてくれたことには違いないのだ。
  そう思うと火村が無性に愛しく気がつけば抱きついていたのだ。
「熱烈歓迎は嬉しいのだけどな、アリス。風呂貸してくれないか」
  抱きつく私を引き剥がした。
「風呂?」
「ああ、京都府警にいる間、風呂に入ってないんだ」
  あああ?
  怪訝な顔をする私に「臭くないか?」と笑う火村。
  そう言えば微妙に汗臭い。
「汚いなーっ!」
  慌てて火村を「しっしっ」と追い払う。
「恋人に向かって酷いな」とぼりぼり頭を掻く火村からは白い粉が舞い散った。
「フケが落ちよるやんかっ!もー!汚いやっちゃなー!」
「しょうがないだろう、着替えも何もなかったんだから」とぼやく火村に私はカチンと来た。面会を申し込んだのにこの男はそれを拒否したのだ。
「それはお前が面会も拒否するからやないか!」
「悪かったよ」
  私は慌てて火村を風呂場に連れ込んだ。
「俺をやきもきさせた罰や!自分で掃除して入れや!」
「へーへー」
  体のあちこちが痒いのだろう、頭以外にも腹や腰をぼりぼりと掻いている。
  だらしなく伸びた無精髭が疲れた様相に見せていた。
「ほれ、髭もそってきれいにして出てこいや。男前になって出てこな承知せぇへンからな」
  使い捨ての髭剃りを渡し、風呂場を出ようとしたところで火村に腕をつかまれた。
「アリス、一緒に入ろう」
「アホ抜かせ。狭い風呂に野郎二人で入らなあかんねん。一週間分の垢落として来い」
  火村の腕を払い退け、脱衣所を後にした。
「つれないな」
  クックッと笑う火村の声が聞こえた。
  暫くすると風呂場から水の流れる音と共にご機嫌な火村の口笛が聞こえ始めた。

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