Closer
- 疑惑の恋人 -

20061103

8.

 火村が垢も髭もすっきりさせて風呂場から出てきた途端に、私はここまでこの男を欲していたのだなと少し気恥ずかしい思いを棚に置いて、待ってましたと言わんばかりに火村に抱きついた。
  そして二人して縺れ合い転がり込むように寝室のベッドへ。
  事件の話には触れず、ただ二人してお互いの温もりを確かめ合った。
  年甲斐もなく恥も外聞もかなぐり捨てて、私は火村を求めた。抱き返してくれる力強い腕がうれしくて「離れない」と言ってくれた嘘つきな唇が昂ぶった私の気持ちを宥め優しく解してくれた。
  何度も火村の名前を呼び、その都度火村は耳元で「ここにいる」と囁き、何度も優しくキスをしてくれた。
「俺をやきもきさせた罰や、今夜は離さへんで」
  挑むような私の目線に火村はふっと口の端で笑い、普段は何の存在感もない乳首を弄り始めた。火村の指によって強烈なまでの存在を知らしめるその部分。男の体でもこんなに感じさせらるとはこの関係になるまで知らなかった。
  指先で摘まれて、指の腹で捏ねられて、私は感じすぎる愛撫に火村の思い通り声を挙げる羽目になる。
「そこばっかし…や、やめ…」
  嫌だと訴えても、火村の執拗な愛撫は止められる事は無く「うるさい口は塞いでしまうに限る」と笑いながら口付けを仕掛けてきた。
  はしたない水音を出しながらお互いの舌を絡め、火村は至極冷静に口付けだけに没頭せず、その指は執拗に私の一番弱いところを狙ってくる。
「う…んっ…」
  浅ましくも火村の舌を離すことができない。
「アリス、腰が揺れてる」揶揄(やゆ)を含んだ火村の声。
「しゃ、しゃあないやん…んっ…」火村の愛撫に下半身の疼きが止まらず、段々と余裕が無くなっていく私に対し、火村はどこまでも冷静だった。
  巧みに攻めてくる指先は私の弱い部分すべてを知っている。
  だんだん自分の前が苦しくなってきたのもあり、自分でズボンの前を寛げると、「我慢せずに、全部脱げよ」と言って火村が一気に引き摺り落とした。
  肌に感じる火村のしっとりと湿り始めた肌は熱く、私の奥底に眠っていた官能に火を点した。 
  胸を愛撫していた手が、指が、背骨をなぞり始めるのと同時に私の全身に電気が走った。
「あ…」
  火村は私の体を仰向けに倒し、圧し掛り、口付けが耳朶に、首筋に、鎖骨に
  火村の唇が胸にたどり着くまでにはもう私の意識はぐだぐだになっていた。
「相変わらずの感度だよなあ」
  まるで私が淫乱だとでも言うのだろうか。呂律の回らない口で否定するが、言葉にならない。
「そんなん、君が・・・」
「そうだな。俺がお前を変えたんだよな。でもな、お前も俺を変えたんだよ」こんな風に。そう言って火村は膝立ちになり私の脚を割り開き、内股に唇を這わせ、幾つもの痕を残し快感に弱い私の中心を攻めてきた。
「そうや・・・あっ・・・」
  数え切れないぐらいに体を重ねていても、けして慣れることは出来ない行為に私は快楽と言う淵に引きずり込まれる。
  生暖かく湿った質感が熱く猛った私を包む。根元を塞き止められ先端ばかり攻め立てられる。
  イキたいのにそれを許してもらえない。
「まだ早い」
「くっ…あ…ねちこいなぁ…あっ」
  私の火村の頭をどうにか剥がそうと髪の毛を引っ張った。
「いてて」
「も、あかんて…」
「まだだって言ったぞ」
「んな、殺生な…」
「なら、こう、か?」
  火村の尖った舌が熱く熱が集まった私の中心の裂け目をこじ開けようと侵入を始めると、足の先まで電流のようなものが走り、声が抑えられなくなり、喘ぐことしかできなくなった。
「いっ…あ、ひっ、あ…ああっ! 」
  塞き止められていても我慢できずに火村の指の間からどくどくと零れてくる。
  火村の唇が離れ、開放された途端に溢れ出てくる私のものは後ろをも濡らし始めた。
「はあ…ん…」
  腰を持ち上げられ、膝裏に手を回し、私の脚を抱えるように更に割り開く。
  火村の視線に晒され、自分でもわかるぐらいにそこが収縮してる。
「はう…んっ!」
  自分のもので濡れた蕾に火村の長い指の先端が差し込まれた。
  小さく入り口周辺を撫でるように蠢く指と、指よりも柔らかく熱のあるものが侵入してきたのがわかった。
「あ、あかん…そん、汚いって…あ…」
  耐えられないほどの羞恥が私を襲い、脚を閉じようと力を入れるが、脚の間にいる火村が邪魔をして閉じることが出来ない。火村のみだらな行為をとめることが出来ない。
「おとなしく感じてろ」
「いやや…」
「嫌じゃないだろう。ここも熱烈歓迎してるぜ」
  オヤジ。この変態親父。そう言いたいのに火村の愛撫に翻弄されて言葉が出せない。 
  唇が離れると指がもう一本増やされた。
  二本の指が淫らに動く。襞を引っ掻くように、捲るように。そしてある一点を探り出し、そこを執拗に攻め立てられた。
「はうっ!」
  奇妙な叫びが私の口をついて出た。
  もうだめだ。耐えられない。
「腰が揺れてる」
  私は頭を振り泣きながらも腰を動かしていたらしく、火村がそれを笑う。
「し…知らっ…ん…」
「まあ、俺も大概限界かな」笑いながら猛った自身を取り出し、どこから取り出しのか判らないが、コンドームのパッケージを口にはさみ片手で破り破り手早く装着し、再び私の脚の間に割り込み、私の火村が貪欲に欲して蠢いている蕾に先端が押し付けられた。
  薄い膜一枚隔てていても生々しく感じる熱い火村の昂りを、襲ってくる大きな波を予感したのか自分でも上手く受け入れることが出来ない。
「力抜けって」
  火村が両手で私の尻を割り、自身を埋め込もうとするが力を抜くことが出来ない。
「怖がるなよ」
  そんなことを言っても怖いものは怖いのだ。
「そ、そんなん言うたかて…自己主張の激しいもん持ってるからやないかー」入るわけないやろ。といつも同じようなことを口にしている。
「初めてじゃないんだから…」呆れたような口調で火村は再び私の後ろを解し始めた。優しく労わるような愛撫に力が抜け始める。
  抱かれるたびに繰り返す同じようなこと。
  怖い。
  でも、抱かれたい。
  怖い。
  でも、抱きたい。
  その度に火村は根気強くじっくりと宥め賺し、追い詰めていくのだ。追い詰められた私に残された道は火村を受け入れることだけ。ただそれだけ。
「ひ、ひむらぁ…」
「どうした?」
「あかん…もう、あかん…」
  欲しくて欲しくてたまらない。
  手を伸ばし、火村の頭を抱え込む。
  再び熱いものが狙いを定めて侵入してきた。
「あっ…」
  火村の我慢も限界だったのかゆっくりだった腰の動きがすぐに激しくなり、私も火村のペースに引き摺られるように追い上げられ、いともたやすく絶頂を迎えてしまった。

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