眩闇
Brightness and Darkness
--You are the only that t have really loved and wanted--



「ユンの女という存在の全ては祖母だったんだな」
「全てというよりも、トラウマだな」
 敬う存在ではなく、恐怖という存在そのものになっているのだ。
「俺はゲイだけど、女性を怖いと思ったことはないな」
「お前は、誰も怖くないんだろう」とおどけたラルフにレオーニは釘をさすが、「俺が怖いのはレオだけかな」と言われ口篭もる。
 ラルフの何気ないおどけた口調ではありながらも、本音なのだ。確かに自分の思い人が一番怖い存在で、恋人の一挙一動が自分を臆病者にさせられる。
 その挙句に逃げ出したのは俺だな。などと火村は自嘲する。
 拒絶されるのが怖くて逃げてきたのだ。
 ユンが背負っているのは殺人と言う罪。
 正当防衛ではあるが、やはり、自分の手を血で染めてしまった。
 愛しい恋人は相談相手にもならず、ユンを避けた。
「何よりも変えがたいはずの恋人が、ユンを裏切ったのだな」
 レオーニは小さな声で呟いた。
 女医殺害の新聞記事にはユンの顔写真が掲載されており、神経質そうなアジア系の少年が勘定のない人形のように映っている。
「カウンセリングに行く前も相談しなかったのかな」
「したらしいよ。それに、ベネディクソン医師はユンの恋人の紹介だそうだ」
 話題にはでていたが、いまだ名前が挙がっていないユンの恋人。
「じゃあ、事件の関係者な訳だ。取り調べも受けてるんだよな、何で調書がないんだ?」
 確かにユンの家族や周りのファイルはあるが、ユンの恋人という人間に関してのものが何一つ送られてきていない。
 レオーニは怪訝な顔をして、ユンのファイルを捲りつづけた。
「さあ?」ラルフも何も知らないといった風に両肩を上げた。
「そのファイルを探さないといけないのか...しかし、ユンってそんなに大きな秘密を抱えるような奴だったかな...」大きく伸びをするレオーニ。
「お前にとっては大きくない問題かもしれないが、ユンにとってはとてつもなく大きな問題だったんだろうさ。Race、Looks、Sexualty、Status」
「ある意味、レオは公明正大且つ残酷なんだよ、ヒム」
「なんだよ、俺が残酷?そんな事はどうでもいい。問題はユンの恋人だよな。学生時代って誰かと付き合ってたのかな」
 ファイルに閉じられているハイスクール時代の写真を引っ張り出してくる。
 日本のような集合写真をあまりとつことのないアメリカの文化、卒業のプロ無のときにとられたものであろうと思われる写真。皆思い思いの一張羅を着て卒業を祝う。
「この時はすでにヒムは日本に帰ったんだよな」
「ああ、俺がいたのはほんの2年ちょっとだ」
 どう言う縁なのか、レオーニとは長い付き合いになっている。皮肉な事に最愛の想い人以上にだ。
「ハイスクールの頃、ユンには付き合っているような人間はいなかったように思う。どっちかというと、人との接触を避けていたように覚えてるが」
 合わせる事をしない目。
 感情を表さない白い顔。
 そのくせ、怯えは見せる。
 だが、火村は覚えていた。
 ユンの瞳の強い光を。


「あれ?」ラルフが目の前の建物の裏口に現われた男を指差した。
「でっかい野郎だなあ」
「北欧系だな」
 ラルフが指差した男は2メートル近くはあるかと思われるが、黒いスーツに身を包んでいる様は、堅気には見えない。
「用心棒だな」
 黒いスーツの男はプラチナブロンドを後ろに撫で付け、ベーシックなサングラスを掛けていた。
「ブルース・ブラザーズみたいだな」
 プラチナブロンドの男は左右を確かめ、街の方に消えて行った。
「あ、俺、ちょっとでてくる」ラルフは車を降りていく。
「おい!どこ行くんだよ」
「ん〜?捜査機密」そう言って走り去ってしまった。
「レオーニ、いいのか?張り込みしている最中に大声出しても」
 ニヤニヤと笑う火村。
 しまった!という顔で両手で頬を覆いムンクの叫びの真似をするレオーニ。
「Oops!」


 

to be continued...

 

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